2025.07.15 更新

硬質アルマイトの膜厚不足・過剰のリスクとは?事前に知っておくべき皮膜仕様の基本

アルミ部品に耐摩耗性や耐食性を持たせる手段として広く使われる 「硬質アルマイト処理」。 その性能を左右する最も重要な要素の一つが膜厚(皮膜の厚さ)です。 しかし、設計段階でこの「膜厚仕様」が曖昧なまま発注されるケースも少なくありません。 膜厚は不足しても、過剰でも、製品にとってリスクとなる可能性があります。 本記事では、膜厚仕様を十分に理解していない設計者・発注者の方へ向けて、膜厚不足・過剰のリスクについて解説します。

1.そもそも「膜厚」とは何か?

アルマイト処理では、アルミニウムの表面に酸化皮膜を人工的に生成します。

特に硬質アルマイトは、普通アルマイト(通常5μm前後)よりも皮膜が厚く、

20〜50μm程度の厚膜が一般的で、

硬度や耐摩耗性・絶縁性・耐食性に優れます。

この皮膜の厚み(μm単位)が「膜厚」です。

2.アルマイトの膜厚が不足するとどうなる?

アルマイト膜厚が設計値より薄すぎる場合、以下のような問題が発生する可能性があります。

①耐摩耗性の低下

硬質アルマイトの特長である「高い耐摩耗性」は、

膜厚によって支えられています。

膜厚が不足していると摩耗寿命が短くなり、部品の交換頻度が増えます。

【対策】

摩擦係数を下げる潤滑性アルマイト(カシマコート)等を採用する事で薄膜でも摩耗寿命を延ばすことが可能です。

②耐食性の低下

アルマイト皮膜は、下地のアルミを酸や湿気から保護する役割を担います。

膜厚が薄いと、特に屋外や湿度の高い環境での使用時の腐食のリスクが高まります。

③絶縁性の不安定化

電気絶縁目的で使用される場合、

膜厚不足により絶縁抵抗が不十分になるリスクもあります。

 

これらのリスクは「硬質アルマイトに限らず、すべてのアルマイト処理に共通」

ここまで述べた膜厚に関する注意は、普通アルマイトでも共通する基本的な性質です。

3.膜厚が過剰でも問題?

膜厚は厚ければ厚いほど良い、というわけではありません。

過剰な膜厚もまた、以下のようなリスクを招きます。

① 寸法公差外れ

アルマイト皮膜はアルミ基材に“盛られる”ため、

膜厚が増すと寸法が膨らみます。

(一般的に膜厚の約50%が表面に、残りが基材に食い込む)

膜厚が過剰だと、

寸法オーバーして組付け不良が起こることがあります。

被膜は様々な条件(添加合金の偏析・温度・成形方法・熱処理等)によって

多少のバラつきが起こりますが、

膜厚は増えるほどバラつきも大きくなります。

②クラック(ひび割れ)の発生リスク

硬質アルマイト皮膜の硬度は高いく脆いため、

膜厚が過剰になると内部応力によりひび割れ(クラック)が発生するリスクが高まります。

特にA7000系などでは注意が必要です。

③加工コスト・納期の増加

膜厚を厚くすると処理時間も長くなり、

処理コストや工程時間が増加します。

無駄な厚膜指定はコストアップにつながります。

4.よくある発注ミスと注意点

●「総膜厚」と「成長膜厚」を混同している

図面指示で「膜厚20μm」とだけあると、機械加工業者によって解釈が異なる場合があります。

「増膜(成長膜厚)で20μm」など、明確な指示が必要です。

詳しくは↓の記事を参考に

【要注意】アルマイト処理の発注に「片肉◯μ」と指定すると危険?膜厚の正しい伝え方とは

●「処理後寸法」なのか「処理前寸法」なのか

機械加工寸法と処理後の寸法が混在していると、最終寸法が狂ってしまいます。

寸法指定時には処理前/後のどちら基準かを忘れず記載しましょう。

5.【まとめ】膜厚仕様は「設計の一部」として考える

硬質アルマイトの性能を最大限に引き出すには、膜厚仕様の適切な設計と明確な指示が欠かせません。

こちらの記事も併せてどうぞ

アルマイトのマスキングと寸法精度対策について

【設計・発注時のチェックリスト】

✅使用目的に応じた膜厚設定(耐久性重視=厚め、寸法重視=薄め)

✅寸法基準(処理前/後)の記載

✅必要以上に厚くしない(コスト・納期にも影響)

膜厚は単なる“数値”ではなく、性能・品質・コストに直結する重要な設計要素です。表面処理のプロと相談しながら、適切な仕様設計を心がけましょう。

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