2025.11.11 更新

アルマイト皮膜に現れる模様の正体 ― 結晶組織と電解条件が生む外観の科学ー

アルマイト処理を施したアルミ表面に、うっすらとしたスジ模様や雲のようなムラが現れることがあります。 一見「不良」に見えるかも知れませんが、 その多くはアルミ素材の持つ“素性”や電解条件のわずかな違いから生まれる、 いわば「金属の表情や履歴」でもあります。 本稿では、アルマイト皮膜に模様が生じるメカニズムを、 材料・加工の2つの視点から解説します。

1.模様はどこから生まれる?(素材内部の“地図”を見る)

アルミ材の表面は、一見均一に見えますが、

結晶粒の方向や合金元素の分布がわずかに異なります。
この組織差がアルマイトの電解時に局所的な差となり、
結果として「微妙な光沢差」や「スジ模様」として

外観に現れる事があります。

模様が発生する代表的な3つのパターン

①押出材の流動方向は結晶の流れが残り、縞状模様が出る

②熱処理履歴の差により析出粒子が残り、局所的な皮膜厚差を生む事がある

③合金元素の偏り(例:Si, Cuなど)による電解速度の不均一化

つまり模様とは、素材の履歴が可視化されたものです。

2.前処理・機械加工の影響も無視できない

アルマイト前のエッチングや研磨も模様の発生の原因になります。
機械加工の送り痕が完全に除去できていない場合や、

表面に防錆油が酸化・重合し固着している場合等では、

通常の脱脂工程では完全に除去出来ず
電解反応が局所的に阻害され、「スジ状」「雲状」の模様が強調されることがあります。

また、アルミダイカスト製品など鋳造肌特有の結晶偏析を持つ素材では、
模様の出方がさらに顕著です。

3.ADC12材とMDコートに見る「模様」の現れ方

当社でMDコート処理を行う際、対象となる素材の多くは

アルミダイカスト材(ADC12)です。
アルミダイカスト材のほとんどが、寸法安定性に優れる一方で、

射出成型時の溶湯が流れた跡(湯模様)や偏析ムラ

といった鋳造特有の模様を持つ素材でもあります。

これらは鋳造時の溶湯の流れや

凝固過程や離型剤成分の影響で生じるSiリッチ層やCu濃化部などによるもので、
電解時に局所的に反応速度が異なるため、
皮膜厚や光沢のわずかな差として模様が発現します。

MDコートでは、こうしたアルミダイカスト材特有のばらつきを考慮し、
皮膜形成をできる限り均一化するための調整を行っています。
これにより、偏析の影響を最小限にし、耐食性を向上させています。

 

4.まとめ

アルマイト皮膜の模様は、
単なる「ムラ」ではなく、素材・加工・電解の履歴が刻まれた記録です。
そのメカニズムを理解し、適切に制御することで、
より美しく・高機能なアルマイト処理を実現できます。

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