2025.10.21 更新

アルマイト皮膜は電気を通す?通さない?― 誤解しがちな“絶縁性”と環境による影響 ―

アルマイト(陽極酸化皮膜)は、「絶縁皮膜」として知られています。 しかし実際には、皮膜の厚みや環境条件によって特性が変化することをご存じでしょうか。 この記事では、アルマイト皮膜の“絶縁性”について、 一般的なイメージとの違いを整理しながら解説します。

1.アルマイト皮膜の構造と基本特性

アルマイトは、アルミニウムを電解処理することで生成される酸化アルミニウム(Al₂O₃)層です。
皮膜は大きく分けて、次の二層構造で形成されています。

  • 多孔質層:微細な孔が無数に存在し、染色や封孔処理を行う部分。
  • バリア層:アルミ素地と密着する緻密な層で、厚さは数十ナノメートル程度。

酸化アルミニウムは本来、体積抵抗率が10¹²~10¹⁴ Ω・cmと非常に高く、優れた絶縁性を持っています。
そのため、一般的な電気試験では「導通しない=絶縁体」と判断されます。

2.「絶縁体=完全に電気を通さない」わけではない

⑴厚膜だから安心? 実はそうでもない

アルマイトの絶縁性は膜厚に比例して高くなる傾向がありますが、
「厚膜=完全な絶縁体」とは言い切れません。

環境や条件によってわずかに電流がリークすることがあります。

厚膜ならではの弱点がクラックです。

特に厚膜の硬質アルマイトでは

クラック発生のリスクは高まります。

微細なクラックが入りわずかに母材が露出した部位では

完全に絶縁性が失われます。

反対に薄膜(5μm以下)の場合は、

皮膜自体が薄く電流が通りやすい傾向にあります。

⑵未封孔では湿潤環境で抵抗値が低下する

アルマイト皮膜の多孔質構造の封孔が不十分な状態、

特に硬度重視で封孔をしていない硬質アルマイト等は、

湿気を吸収する事があります。

高湿度・結露環境では、
孔内部に水分や電解質が容易に侵入し、

電気の通り道ができる事があります。

その結果、乾燥環境で10¹²Ω・cmあった抵抗値が、
湿潤条件では大きく低下することもあります。

この現象は、屋外機器や高湿度環境に曝される製品の

絶縁信頼性を大きく左右する重要な要素です。

⑶絶縁破壊電圧の目安

アルマイト皮膜も絶縁体とはいえ、

一定電圧を超えると絶縁破壊が起こります。
一般的な硬質アルマイトでは、30V/μm前後が目安になります。

(条件や環境による)

たとえば膜厚20μmであれば、

おおよそ600V前後で破壊する可能性があります。
静電気の影響を受けるような装置では、この点も考慮が必要です。

3.導電が必要な場合の対策方法

電子部品やアースポイントなど、通電を必要とする箇所では、
以下のような対策が必要です。

方法 内容 特徴
マスキング処理 処理前に接点部をマスキングして素地を露出 最も確実でシンプルな方法
導電アルマイト SCダイズ®等を採用 抵抗値を制御(10⁷~10⁸Ω)
部分研磨・除膜 処理後に通電部を機械的に除去 小面積で導電を確保したい場合に有効

 

4.まとめ

観点 ポイント
絶縁性の本質 酸化アルミ由来の高抵抗体だが、完全絶縁ではない
膜厚による違い 厚膜でも水分を含めば抵抗値が下がることもある
環境の影響 湿潤や高電圧条件で特性が大きく変化する
設計上の注意 導電が必要な箇所はマスキングや導電アルマイトで対応

アルマイト皮膜は、一般的には「電気を通さない」

優れた絶縁被膜です。
しかしその特性は

膜厚や環境条件によって変化するため、
設計段階で「どの程度の絶縁性が求められるか」を

明確にしておくことが重要です。

特に湿度や結露の影響を受ける環境では、
封孔処理や表面状態を含めた

実使用環境での評価を行うことで、
より安定した絶縁性能を確保できます。

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