2025.10.28 更新

“表面処理×分子設計” ― MOFとアルマイトの意外な共通点 ―

2025年、金属有機構造体(MOF:Metal–Organic Framework)がノーベル化学賞を受賞しました。 受賞者のひとりである京大の北川進(きたがわ すすむ)教授は、 日本の多孔性材料研究を世界の最前線に押し上げた第一人者です。 分子レベルで金属と有機分子を組み上げ、 網目状の“分子骨格”をつくるという発想が、 「物質を構造から設計する」新しい材料科学の幕を開いたとして高く評価されました。 このニュースは、表面処理や材料開発に携わる人々にとって他人事ではありません。 なぜなら、MOFの根幹にある“ナノスケール構造をデザインする”という考え方は、 実は私たちが目にするアルマイト皮膜の世界にも通じるからです。

1.表面を“設計”する時代

アルマイト(陽極酸化皮膜)は、アルミ表面に人工的な酸化層を形成し、
耐食性や硬度を高める代表的な表面処理です。
一方のMOFは、金属イオンと有機分子を組み合わせ、
分子の設計図に従ってナノレベルの多孔構造を作り出す材料技術。

一見まったく別の技術に思えますが、
両者は「構造を制御して機能を生み出す」

という共通の思想が流れています。
アルマイトは電解条件を設計することで“孔構造”を制御し、
MOFは分子の組み合わせを設計して“孔の性質”を制御します。
それぞれアプローチは異なりますが、

目指すゴールは驚くほど似ています。

2.MOFとは何か 「分子の積み木でつくる多孔質構造」

MOFは、金属イオン(アルミニウム、亜鉛、ジルコニウムなど)と
有機分子を規則的に連結させてできる、

三次元の網目構造体です。
最大の特徴は、

ナノスケールの孔(ポア)を自在に設計する点です。

その“孔”の内部に、ガスや分子を吸着・貯蔵・分離できるため、
CO₂回収、水素貯蔵、医薬品の輸送、触媒反応などへの応用が進んでいます。
つまり、MOFは

「分子を積み木のように組んで、狙った機能を持つ構造を作る」材料です。

3.実はアルマイトも“ナノ構造体”だった

アルマイト皮膜もまた、ナノスケールの孔を持つ多孔質構造です。
アルミを電解処理すると、

表面に酸化アルミニウム(Al₂O₃)の層が形成されます。
その層には、直径 数100ナノメートル前後の微細な孔が整然と並び、
染料や潤滑剤を取り込むことで、

多彩な機能を生み出しています。

つまり、アルマイトは

「自然に自己組織化してできるナノ構造体」。
この“ナノ孔”が、硬度・密着性・潤滑性・耐食性といった
私たちがよく知るアルマイトの特性を支えています。

 

4.分子設計と電解設計 (2つのアプローチの共通点)

観点 MOF アルマイト
構造 分子レベルの規則的な

多孔構造

電気化学的に

形成されるナノ多孔構造

機能付与 分子設計で

吸着・反応性を制御

封孔や潤滑剤で特性を拡張
設計手法 化学合成による分子設計 電解条件による構造制御

MOFは「分子を設計する」ことで新しい性質を生み出し、
アルマイトは「電解条件を設計する」ことで

皮膜構造を変化させる。
両者は、異なるルートで“機能を構造から設計する”

という共通の目的にたどり着いているのです。

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